FC2ブログ
 
 
 
 
 
介護人メイルの、悔悟、改悟、開悟、戒護。
 
 
 
 
 
 

介護を超えて、悔悟のままに、「アンディ・ガルシア」のごとく。

 
メイルは、久し振りに自転車に乗った。
30年振り? いや40年振りか? すぐに思い出せないことに、ブルーになっている。
運動不足の解消にもなるからと、なかば強制的に乗せられている。
それが、父親と同じ歳のお世話になっている老婦人のアドバイスだから、従わざるを得ない。
しかも、彼女自身が足を悪くし自由にならなくなってきていて、足を動かすことの大切さをイヤというほど痛感しながら、「運動しなければ、ダメよ。カラダが弱るだけでなく、心まで弱くなってしまうから」と切実に言うから、何も反論できない。
それにしても、自転車を漕ぐのは、辛い。
それ以上に、恐い、半端じゃなく恐い。
狭い住宅街の道路を、息を切らしてサドルを左右に振らして、懸命に進んでいるメイルのすぐ横を、立て続けざまに車が何台もかすめるように追い越してゆく。
そして、誰一人としてスピードを緩めようとしてくれない…。
ついこの前まで、メイルは車の中から、自転車で交通ルールを無視し、傍若無人に無謀運転するヒトたちに、「自転車もクルマ。ちゃんと交通ルールを守れ」と心の中で叫んでいたことを思い出し、複雑だった。
そして、時々、「ここは日本。中国じゃない」と、実際に声を上げていたことまで思い出し、また父親のことを思い浮かべた…。

母親が2度目の入院した直後、メイルは父親に詰問しなければならない羽目になった。
父親の食事の援助をしてくれていた介護士から、苦情の電話を受けたからだった。
彼女の話によると、「父親が勝手に自転車で買物に行ってしまうので、規則上困る」ということだった。
仕方なく、メイルは父親と面と向かって話すことになった。
母親のことでショックなことは百も承知していたので、できるだけ小言を言わず、目をつぶろうと決めていたので、あえて普段余計なことは話さないようにしていた。
以前、偶然に父親の自転車の乗り方を目撃したことがあったので、ことさらだった。
例外でなく、メイルの父親の自転車運転も、年老いた老人男のメチャクチャ乱暴なものだった。
道路の右側と左側を後方を見ることなく行ったりきたり、車道に出たり、信号があるのに手前で道路を突然横断したり、それはどこから見ても、ロシアンルーレットでしかなかった。
「父さん、また自転車乗ってるんだって?」
「乗ってないよ」
「ほんと? ウソついたらだめだよ」
「ウソなんてついてないよ」
「それならいいけど…父さんは介護度2の認定だから、買物介助になっていて、独りで買物ができないことになってるんだよ」
「わかってるよ。だから、買物になんか行ってないよ」
「わかった。わかった…ところで、居間に置いてあるテッシューの箱の束はどうしたの?」
「スーパーで買ってきたんだよ。だって、その辺で買うより120円も安いんだよ。オマエはわかんないんだろうけど、年金暮らしは大変なんだよ。少しでも節約しなきゃ。それに、テッシューはスーパーで買うように母さんから、言われているから…」
メイルは、その言葉で、それ以上言うのを止めた。
介護度5の母親はもう二度と父親に、「スーパーに買物に行ってきて、お父さん」とは言えるわけがなかったからだった。
もしかしたら、父親は買物に行く感覚などなく、母親との暮らしの継続をそうやって夢見ていただけだったのかも知れない。

メイルは、映画「NIght falls on Manhattan(マンハッタンに黒い闇が広がる:邦題、NY検事局)」のアンディ・ガルシアの気分だった。
NYニューヨーク市警の警官の子で、聖職者を目指して聖ジョーンズ大学を卒業したのに、父親と同じ市警の警官になり、苦労して検事補になる。
途端に、我が国がいくら後を追っても追いつけそうもないUSAのニューヨークの麻薬禍、そして、その金にまつわる根深い市警警察官たちの汚職、自分の父親が麻薬密売の元締めを逮捕しようとして撃たれ瀕死の重傷を負ったことから、そのどす黒い警官汚職事件に巻き込まれる。
そして、「knowing street(庶民を知っている)」ということで、その事件の担当になる。
アンディ・ガルシアは入院している父親を訪ね、その報告をする。
そのとき、「『Need it(さあ、やれ)』という自分にだけ言っていた父親の口癖が、いい言葉だ」と語りかける。
メイルと父親の間には、そんなものは何もなかった。
アンディ・ガルシアの父親と違って、キャッチボールのときも、試験のときも、黙って促すだけだった…。
そのうち、汚職嫌疑が父親の相棒にかかる。
正義感の強いアンディ・ガルシアは、父親を疑い、父親を母親の墓で詰問する。
父親は自分の息子に疑われるショックを隠せないまま、死んだ母親に無実を誓わせられる。
やがて、父親の相棒から司法取引を相談されるが、アンディ・ガルシアは、父親の目の前で、けんもほろろに断るだけでなく、その相棒を糾弾する。
そんなアンディ・ガルシアを見て、父親は告白する。
「俺は相棒がお金を受けとっていたことは本当に知らなかった。俺は受け取っていなかったが、安月給の警官にとって、全員でたったの60万ドルの賄賂だ、誰が断れる。世の中には、医者、弁護士、ゼネコンのヤツらが、他人を犠牲にして、大儲けしているじゃないか…。オレも、俺も法を犯した。期限が失効していた逮捕状を、どうしても自分の手で捕まえたくて、偽造した。37年間の警察官暮らしの人生で、最大の捕物だと思ったからだ。でも、それでお前に迷惑をかけるわけにいかない。自首する。とっくに、首になっていい歳だ。お前がそれを黙っていられのないなら、仕方ない。もうこんな世の中についていけない」…。
アンディ・ガルシアが、「そんな問題じゃない。これがわかったら、あのクソッタレは放免されてしまうんだ」と、父親の手を握ろうとすると、カラダをビクンとさせて拒む。
このシーンを見た瞬間、メイルは全身がビクビクンと震えた。
父親に向かって、メイルが怒ってものを言うと、父親が同じ反応をよくしていたからである。
「ダメだよ、父さん。母さんが悲しむよ…。もう自分も死にたいとか、こんな風に母さんがなっちゃって、もうどうしていいかわからないとか、そんな投げやりなことを言っちゃダメ」と言って、「ネエ、父さん」と肩に触れようとすると、そっと避けるのだった。
そのたびに、メイルは「いけない。いけない。本気で真っ向から言っちゃいけない」と内心反省していたのだが、どうしてもすぐ言ってしまうのだ…。
それにしても、そんなアンディ・ガルシアの父親の対応に、メイルは自分の父親をイヤといほど投影させられ、苦笑するしかなかった。

この映画で、メイルが目からウロコの気持ちにさせられたところが、2回ある。どちらも敵対しているはずの弁護士とのサウナ会談。
1回目のサウナ会談では、アンディ・ガルシアが「何であんなクズの弁護を引き受けたの?」と質問したときの弁護士の解答。
「本当の目的は、麻薬社会の撲滅。そのためにも、汚職警官を根絶したい。私だって、あんな若い麻薬密売人のクズには、ハラワタが煮えくり返る。時々、あんな世代の連中はみんな見捨てて、永久に刑務所に放り込んでやりたい。15歳の娘が麻薬で死んで、人生は変わった。君が地方検事になったら、汚職警官の追及をしてくれ」
「わかった。for ever(徹底的にやる」
「for ever? 君はロマンチストだな」…。
メイルはこのやりとりを見て、我が国の社会派なる情けなくてみっともない弁護士にこの映画を見せたいと思って、溜息していた。
2回目のサウナ会談では、父親をかばうために、それ以上に麻薬密売人を放免させないために、自分の正義を裏切ったアンディ・ガルシアが「もう地方検事を辞める」と言ったときの弁護士の解答。
「物事は思うほど単純じゃない。私はperfect(パーフェクト)じゃない。欠点だらけだ。君はパーフェクトなのか?」…。
メイルは、アンディ・ガルシア以上にパーフェクトじゃないのに、なぜ自分のこれだけ年を取った父親をパーフェクトにさせようとしてしまったのか、残酷な自分を深く反省している。
アンディ・ガルシアでさえ、白黒はっきりしていることはともかく、グレーな部分でどう物事に向き合うかが大切と気づいているのに、どうして死ぬまでシャキッとさせようとしてしまったのか、自転車に乗りながら、今、再び後悔している。
そして、もしかして父親は自転車に乗って轢かれて死んでしまいたかったのかもと、初めて感じている。





スポンサーサイト



 
 
 
 
 
 
プロフィール
 

介護人 メイル・GIVEソン

Author:介護人 メイル・GIVEソン

介護なんて、「する側」も「される側」も現実であってほしくないと毎日願って過ごしている。
ある日突然、前ぶれもなく目の前にそれが現れた…。

東仙坊の、介護用ハンドルネーム「メイル・GIVEソン」が、好きな映画と対照して、お届けする介護ブログ。
bnr-tosenbo-kaigo3.jpg

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
PR
 
 
 
 
 
 
 
QRコード
 
QRコード
 
 
 
 
 
 
ブログランキング
 
 
 
 
 
 
 
ブログ内検索